2009年7月1日水曜日

「イッツ・ピアソラタイム」

覚えていますか?
長靴を、買ってもらった日のこと。
雨の匂いさえしないのに、
「はいていく!」と駄々をこねた日のこと。
ましてや土砂降りの朝、憂鬱そうな大人の横で
きらきらした瞳をしていたあなたを。

雨を受けた紫陽花のようなつややかな笑顔、
そして雨上がりの光を受けたかがやくその笑顔。
花はそれだけで美しいけれど、
水を得たその花は適材適所を手に入れて
いっそうその輝きを増します。

バイオリン、ピアノ、チェロ。
すでに美しい形と音色をしている楽器たち。
ピアソラのタンゴという適材適所を受けて輝きます。
それに欠かすことのできない奏者、
人のこころが加わることで多様な美しさと強さを
持って輝きます。
それは……コトバに現すことはできません。

甘雨、五月雨、こぬか雨。秋雨、夕立、にわか雨。
日本にはいろいろな雨を表現することばがあるように、
ピアソラは様々にこころの機微をそのタンゴに現します。
現す者がいて、受け取る者がいる。
この先何百年も続く、とピアソラが言い遺したように、
ピアソラのタンゴを受け取るこころは、
どんな風に感じ、伝えてゆくのでしょう。
雨の憂いをどんな風に感じ、一日を送るのか、ということに
似ている気がするのです。

今回、デュオからトリオへ形を変えるピアソラ時間。
幼くして有名チェロ奏者の「リベルタンゴ」に出会った
医道を目指す若きチェリストが加わります。
ピアソラのタンゴを愛して止まない三人が
遥かアルゼンチンの空を想い、ピアソラが目指した
その険しき道に挑戦します。
有効期限付きのトリオ、ピアソラ時間。
日本のちいさな街で聴くピアソラのタンゴ、
唯一無二のタンゴをご一緒に、雨の憂いも受け入れて、
It's "PIAZZOLLA TIME".

Molly*
奏者たちとは、Piazzolla Time Vol.1以来のお付き合い。
昨年より話題の谷川俊太郎 with friends詩集「生きる」にも、
作品が掲載される。

*Piazzolla Time Vol.6(2009年6月28日)プログラムに掲載されました!

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